◆島のスロー・オイル

初めて五島列島の椿油を知ったのは、郷土の食文化を紹介する『長崎の食事』という本でした。

五島では椿の実ことをかたしと呼び、昔から親しまれてきました。秋分の日の前ころから島の人々は椿の実を拾い集め、島の油すめ屋(絞り所)にもっていきます。

絞られた油は、髪につけるびんつけ油にも使いますが、ここではてんぷら油など食用としても使われているそうです。

◆油すめ屋

五島のことをいろいろ調べているうちに、昔ながらの古式製法で絞っている今村製油所さんのことを知り、油の絞りが始まる10月に五島列島・福江島に足をのばしてみました。製油所は中心街から少し離れた道沿いにあり、作業場のでは使い込こまれた機械で黙々と作業をする今村さん家族の姿が見えました。



◆山の水で蒸す山の実

ご主人の今村さんが出てきて「遠くからよく来てくださいました。どうぞ中に
入ってください。」と作業場に通してくれました。

原料となる椿の実は、天日でしっかりと乾燥させた五島産のヤブ椿の実のみを使用するそうです。

椿の実はとても硬く、そのまま圧搾しても絞ることができ
ないので、機械で細かく砕いた後、裏山の湧き水を使ってセイロで蒸しあげていきます。


◆琥珀色の宝石

熱々に蒸された実を手早く圧搾機に移し、上から圧力を加えていき
ます。しばらくすると圧搾機から油がゆっくりと流れ出て、和紙がフィルター代わりなった精製機で不純物などを取り除くのです。

精製された椿油が小さな
蛇口からポタポタと流れ落ちてくる姿は、液体化した琥珀色のようで、絞りたての油の香りが作業場に漂います。この椿油は私が今まで使っていたものとは、色も香りも全く違うものだったのです。



◆椿の山

製造工程を見学した後、今村さんが椿の苗木を植えた裏山を見せてくださいま
した。

「椿の木をこの山にたくさん植えて、ここを椿の里にしたいんですよ。五島の古くからの伝統を皆さんに知ってもらうためにもね。」

作業場で使っている機械や道具などはかつて今村さんの先代が使っていたもので、五島で減りつつあった椿油を絶やさないために、眠っていた道具類を復活させ、数年前から椿油の製造を始めたということでした。

秋にはいり空気が乾燥してくると、私は洗顔後に肌を保湿する椿油が恋しくなります。

のびも良く、さらりとしたつけ心地は、とても便利で冬の必需品です。
やはり日本の風土からできたものは、日本人の肌に合っているのかもしれませんね。


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